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風の影

風の影 上/下 カルロス・ルイス・サフォン 訳:木村裕美 集英社文庫
ディレッタンティズムとは無縁の通俗性がある種心地よい、古典ロマンの再構築。
風の影〈上〉


1945年6月のある早朝、10歳のダニエル少年は古書店を営む父親に連れられ、バルセロナ市街のとある秘密めいた場所に連れて行かれる。そこは「忘れられた本の墓場」と呼ばれる、古書の迷宮のような場所であった。そこで一冊だけ好きな本を選べと父に促されるダニエル少年。様々な書き手や持ち主の思いの込められた本の迷宮から選ばれた一冊は、決して失われないよう、生涯を賭けて守らなくてはいけないのだ。彼が選んだ本はフリアン・カラックス著「風の影」。多くが謎に包まれた作家の失われた一冊を中心に、ダニエル少年の人生は数奇な運命を描いていくのであった。

情感たっぷりの導入部だが、ボルヘスやダニング調の「書を巡る運命」を期待すると大きく外れることになる。本作は、書物そのものではなく、それを書いた人間、読んだ人間の運命を綴る物語なのだ。

舞台となるのはスペインの内戦を経て独裁者フランコの統治下のバルセロナ。フリアン・カラックスの謎に満ちた運命のように、どんよりとした暗雲が立ち込める陰鬱なムードである。

そうした世情の中でダニエル少年が少年から青年に至るプロセスが、上巻の主要な内容だ。大手古書店主の一人娘、盲目の美女。。。年上の女。。。への激しくも切ないダニエルの初恋の行方に見え隠れする禍々しい人物たち。。。フリアン・カラックスの著作を全て焼き尽くそうと画策する謎の男、冷酷で粗暴な治安警察の刑事部長フメロ。そしてダニエルを暖かく見守る父親や友人たち、ダニエルに助けられて生きる活力を得た元浮浪者にして生涯の親友となるフェルミン。

これら登場人物たちが織り成す物語は、はっきり言って通俗的である。だが、それ故に一度読み出したらもう止められなくなる。それは一重に、丁寧なキャラクター造詣の成せる技である。登場する全てのキャラクターがそれぞれのドラマを感じさせ、陰鬱な時代に鮮やかなきらめきを放つ。威力ある登場人物のおりなす一大ロマン。これは、古典的を現代に再構築したとも言えるだろう。そして、人の営みや感情の普遍性を顕にする。だから、面白いのだ。


風の影〈下〉

そして1954年。19歳になったダニエルは、親友トマスの妹ベアトリスと恋に落ちる。許婚のいるベアトリスとの道ならぬ恋が燃え上がる一方、フリアン・カラックスの謎に満ちた生涯も、少しづつベールが剥ぎ取られていく。意外な人物から語られる、フリアン・カラックスの劇的な生涯。そして、カラックスの人生に深く関わっているもう一人の人物、刑事部長フメロは、カラックスの死亡に疑いを抱いており、カラックスの人生を探るダニエルに付きまとう。
ダニエルの心強い見方フェルミンもまた、その過去においてフメロと浅からぬ因縁があった。ダニエル父子のささやかな古書店が治安警察の暴威に晒される。
カラックスの生涯が明らかになるにつれ、ダニエルはそれと知らぬうちに、自身の人生がフリアン・カラックスの人生をなぞっていることに気が付く。フリアン・カラックスとは何者なのか?カラックスの存在を抹消しようとする男は何者なのか?フメロとカラックスにはどんな繋がりがあったのか?そして、ダニエルの運命は!?

ストーリーそのものは通俗的であるし、カラックスの秘密が明かされる手法も、あまり褒められたやり方ではない。だが、カラックスとダニエルの人生がシンクロしていく運命の妙を味わわせる構成力は見事なものがある。時代も境遇も全く異なるダニエルとカラックスが、二重螺旋のように一つの結末に向かっていく。その運命を手繰るのが、悪玉のフメロである事がなんとも上手いのだな。

読み進めていけば、オチは大体読めてしまうのだが、それでもなお、ラストのカタルシスは堪えられない。卓抜した構成力に加え、カラクター造詣をじつに丁寧に緻密に行っているからだ。特に、悪玉フメロの憎憎しさのディテールと運命論的な壁の役割に対し、実に生き生きと軽妙に、生の謳歌を歌い続ける道化のフェルミンの存在が素晴らしい。ダニエルより遥かに年上でありながら、親愛と忠誠を尽くす友人にして従者という立ち居地は、実にクラシックである。だが、その行動原理のプリミティブさ、つまり人間が本能的に持つ善性がるからこそ、陰惨な運命論的物語を大団円に軌道修正するある種の力技を、素直に感動に結びつけるのである。

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